【書評】中年の危機をこじらせた男のヤケクソ一人旅【脱線特急】

  • 2014.07.21

どーも、るいすです。海外を旅していると日本では想像もできないような乗り物にたくさん遭遇します。超長時間バス、乗車率300%の電車、ボロボロのプロペラ機…今回の書評は「わざと」最悪の乗り物を選択した旅人の話です。

 

あらすじ

ある年の3月、トラベルライターのカールは、
妻と3人の子どもたちを置いて、ワシントンDCのチャイナタウンから長距離バスに飛び乗った。
20年間、良き夫であり良き父親だったが、とつぜん糸がプツンと切れた

「中年の危機」に直面した40男は、休暇で行く優雅な旅ではなく、
地元の人が職や生活を求めてふだんやるように、とにかくいちばん危険で、
混雑していて、遅くて、安あがりな手段だけを使って、命がけで移動する旅を選択した。

地元の人びととすし詰めになり、
板の間で重なりあうようにして眠る旅が、
彼にもたらしたものとは。

僕の旅にこんな乗り物一つもなかった

唯一作者と共通している悪名高きインドの夜行列車もそれほどではなかった。ペルー – ボリビアの26時間バスも確かに山道がすごかったけど、まさか、これほどの乗り物があるとは。例えば、著者はこんな乗り物に乗ってます。

ケニアのマタトゥ

手持ちで一番小額の100シリング札を出したら、
バスボーイは釣銭をよこさなかった。
マタトゥ事情を知ってるいまは、むろん要求などしない。
30分後、中央駅から1キロ足らずのところで交通渋滞にはまった。
もう降りてしまいたい。
そう思った僕は、いてもたってもいられなかった。
車内は臭いが立ちこめて息もできないし、左右から誰かの尻や肩が押し付けられる。
ビデオも-いまはディディだ-も音量がすさまじい。
すし詰めの車内と、ムスクに似た強烈な体臭、ひっきりなしの大音響、
ぬかるみ、車どうしの押しあいへしあい。
そんな状況に二十四時間ぶっとおしで身を置いてきたのだ。

インドネシアのシグンタン号

船室の環境は日ごと悪くなっていく。
ごみが増え、タバコの吸い殻が散乱している。
船尾からは、発砲スチロールのラーメンの容器や炭酸飲料の空き缶が
風に乗ってひらひらと飛んで行った-シングンタン号のごみの航跡だ。
暑さも湿気もやわらぐことがない。
ひとりで静かに過ごせる場所は皆無で、
座ろうにも立とうにも、あるいは寝転がろうにも、かならず誰かの身体に触れてしまう。

いったいどうしてカールはこんな旅をしているのか?

死と隣りあわせの旅があることに気づいてからというもの、
僕はそこから目が離せなくなった。
外からはなかなか見えてこない、
大量の人間の脈々とした流れに自ら飛びこみたい。
毎日のように死人が出るフェリー、
岸から飛びだして転落するバス、
墜落しそうな飛行機に乗るのは、
いったいどんな感じなのか。
すさまじい混雑と劣悪な設備の交通手段で、
生命の危険も承知のうえで世界を回ってみたい。
だって世界の大多数の人はそうやって旅をしているのだ。
それしか方法がないから。

 

旅人的心情にすごく同感

この本のミソは、世界中の最悪な乗り物よりも
家族を置いて、仕事をなぐり捨てて旅に出た筆者の心理描写だと思います。

僕はわが家に戻ることに違和感を覚えはじめた。
あまりにちがう二つの生活がぶつかりあう。
内戦状態のスーダン南部では酷暑とハエに苦しめられ、
銃弾を受けた死体がそこらじゅうに転がっていたというのに、
国に戻ったらPTAの会合に出席しなければならない。

僕は、世界一周経験者に、「君は幸運だけど、不運だ」と言われたことがあります。
「若い時に世界中を見て来た。それは、とても幸運だけど、世界がそんなに広がっていることを知ってるということは、不幸でもある」
「もし、君が日本に縛りつけられた時に、世界のことを知らなければ、不幸だと感じることも無いだろうから」と。

この場所に僕たちが同時にいるということ自体、信じられない奇跡だ。
世界は日々小さくなる、なんてお決まりの言いかたを繰りかえす僕だが、
レクスラの暗闇を歩いているときは、ちっとも思わなかった。
むしろ世界は大きい。
広大だ。
僕は自分の国からこんなに遠くに来てしまった。

「世間は狭いけど、世界は広い」というのが、僕の今の世界観です。旅の中で、同じ人に二度会ったりすることはあるけれど、それは自分の世間の中での話で、世界はその外側にもっと広がっているんじゃないかな、と思ってます。

 

次はもう少し無茶な一人旅をしたくなった

乗客どうしがとっくみあいの喧嘩をはじめた。
通路の向こうから、ブルドッグみたいに背が低くがっしりした男がやってくる。
ジーンズの裾をまくり、チェック柄のシャツを着て、人も荷物も、ものともせず歩く姿は
アメリカンフットボールの選手のようだ。
身長170センチ、体重は90キログラム。
「ひでえ有様だな!」彼はそうどなると、僕のコンパートメントに入ってきた。
「あんた、英語しゃべれるんだな。どこへ行くんだ? どっから来た?」

こんな他愛のない出会いや、日常の風景が旅人にはおもしろいです。前回の世界一周では、「人との出会い」はそんなに重要じゃなかった。

留学で人と十分に出会った、という気持ちがあったのかもしれません。でも、次は世界中の家庭でホームステイするような旅をしたいな、と「脱線特急」を読んで感じました。そして、危険な乗り物も、たまには良いかも。笑

るいす

スキルと仕事を組み合わせて「何者か」になるスラッシュワーカーズ

slash-workers

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